はなうたレビュー18:根子フェス2014+DOMMUNE

この記事は根子フェス2014+DOMMUNEのレビューです。

nekko

ここに書きますは10月4日、北秋田市阿仁根子集落の根子トンネル内で大館北秋田芸術祭のオープニングイベントとして行われた根子フェス(NEKKO FES)において私が見たもの思ったこと等を記録したものであります(10月5日 夜)。

当日予定の開演時間の25分ほど前に根子トンネル前に到着。周りには参加者の人たちがちらほら。開演が迫るにつれて人は増えていく。最終的には100人以上はいたのではないか。子供を連れた人、葉っぱを頭に載せて遊ぶ学生、その辺のキノコを採るおばちゃん達など、なかなかのどかな光景が広がっていた。そのさなかトップバッターのハチスノオトのリハーサル(?)の声が聞こえ、場の関心が一気にトンネルの中に集中する。観客はトンネルの入り口に集まって何が始まるのか興味津々のようだった。トンネルの中への誘導が始まったのはその十五分後くらいで、開演は予定より送れた三時過ぎくらいとなった。

そして公演が始まった。

一番目: ハチスノイト
暗い(たまにオレンジのライトがある)トンネルを人の間を縫って進むと道の真ん中に行く手を阻むようにロウソクの火がゆらゆらしている。そのまえにパフォーマーが立っており、歌が始まった。具体的な言葉による歌詞を持たず「声」のみをその場でサンプリングするパフォーマンス形式とトンネル内の音響効果が合わさりこだまする。 (なお会場では20脚程の小さな折りたたみの椅子が貸し出しされており、その時の舞台の前の最前線は椅子席で占められていた。私が得た場所はその椅子席のすぐ後ろだった)

地面に座っていたため前の人たちの間から見えたのはハチスノイトさんの顔だけだった。とても綺麗な顔だったが、歌声を聴いていると「これは聴くだけでも十分良いのでは」と思い目を閉じて聴いた。そのため感じることができたのは歌声とトンネルに吹くかすかな風のみだったが、まるで歌声が輪郭をまとって体をすり抜けていくような感覚を感じさせた。 (そしてこの風がいままで根子トンネルを通ってきたものたちのエコーであるような考えに襲われ、鳥肌がたった。)

二番目: 柊アリス
一番目の演目が終わると「前に進んでください」と声が聞こえ進む。最前列の人は地面に座り、その後ろに椅子、そしてその後ろは立ち見という形式に落ち着く。最前列で座っていると、闇の中から黒いマントを羽織ったパフォーマーが現れた。始まったのは「スピンドルダンス」というトルコのメレヴィー教を思い出させるような旋回舞踊。くるくるまわる姿がコマみたいで綺麗だったが、この人のパフォーマンスを見たのは初めてだったので、この表現で何を言わんとしているかはよくわからなかった。

(一番目と二番目の演目の間、後ろの方から「よく見えない」という声や誰かがおかしいことでも言ったのか笑い声やら何やらがガヤガヤと聞こえていた。「前の方から座って、大きい人は端に寄って!」とスタッフではなく地元のおかあさんたちが仕切ってくれていた。前の方とは様子が大きく違っていた。)

三番目: 真鍋大度
トンネルをさらに進むと、「今度はご自由な位置でみていただいて構いません」という声が聞こえた。とりあえず最前列付近に立つ。そのうち背後の方から何か大きな足音のような音が近づいてきて止まった。それからは音の洪水だった。… 帰り道でどんな音があったか話したところ、「植物のガサガサ音」「トイレを流す音」「電車のガタンゴトン」「叫び声」と色々な音(大体が日常で聞く、おそらく世界中のどこかしこでいつも鳴っている音)だ。だがあまりにも怒涛の音音音音音音音音音音だったため逆によく覚えていない。暗闇の中でそれらの音が妙にリアルを感じさせてなぜか恐ろしかったことは覚えている。

四番目: 安野太郎
三番目が終わった直後にトイレに行くためにトンネルから出た。戻るとすでに始まっていた為、この演目は後ろの方から見ることになった。マシンを使用して複数の笛を演奏していることはわかったが、前の椅子に隠れてマシンが全然見えなかった(正直かなり見たかった。残念。) 来てみてわかったがなるほど後ろからだと全然見えない。

ただスマホの四角い画面がチラホラ見えて悲しかった。フェスとライブと演奏会の違いをよく知らないんだけど(フェスというものに行ったことが無かったため)、カメラはわかるが演奏途中で喋ったり携帯みたりするもんなのか?

(後にライブ中のスマホについて補足を頂きました。あれは舞台が見えなかったのでネットで中継されていた方のライブをスマホで見ていたためとのことでした。見えない席があること自体問題だがなるほどそんな手があったのか。でも舞台前の真ん中にカメラマンが立っているのはどうかと思う。その場所に見に来ている人が居るのに。)

五番目: 七尾旅人
四番目の反省をいかして次は前列を狙う。偶然にもスピーカーの下に落ち着く。もうだいぶトンネルの出口に近づいてきた。そのうち般若のような面をつけた七尾旅人の姿が闇に浮かび上がる(五つの演目のなかでは唯一の青い照明だった。)… 波の音が聞こえてきて歌が始まった。疲れと前の席があまり良くなかったことによるふてくされで「へーきれいな声だな」とボケーっと聴いていたところいきなり爆音が飛び込んできて精神的にブッ飛ばされる。その時はもうーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーだった(苦痛と恐怖による声にならない叫び)。いきなり音が止まり、夕焼けこやけの歌がはじまる。子供の時から知っていた歌だったがあんなに郷愁的で、そして寂し気な歌だとは知らなかった。そこで少しシンとなったと思いきや、また音が、音が音が音が音が音が

サイレンの音や叫び声まで聞こえてきた。そしてパフォーマーがマイクを握って叫ぶ。叫ぶ 叫ぶ正直かなり恐かった。叫んでいるパフォーマーの気迫は人間ではないのではと思わせるほどだった。

そして音は止みまた歌が始まる。とてもいい歌だった。最後は、その場にいた人(主に前列)が皆で一緒に歌って終わった。七尾旅人さんが「皆さんおつかれさまでした。出口、あちらです」(大体そんなことを言っていた)と指さすと私も含め皆トンネルの向こうに向かって歩き出した。寒さと音を浴びまくって足取りも感覚もフラフラだった。そしたらまた音と叫び声が!走り歩きで逃げるようにトンネルから出た。一時間以上おしていたようだ。真っ暗だった。

明るければ根子集落の景色が見えたそうだが、見えたものは片手で数えられそうな数の窓明かりだけだった。

帰りの車の中で七尾さんの歌が何を言おうとしていたのか考えた。友達は「過疎化が進む秋田の村々を思い出した」と言い、また別の友達は「震災を思い出した」と言った。私は祖父母が経験した戦争(沖縄戦)を思い出していた。おそらくそうゆう作用(自分自身に関連する問題を思い起こさせる)を持つ歌だったのだと思う。歌が終わった後私の心には確実に何かが残った。しかしそれはずっと私の中に存在していたのだ。根子フェスをきっかけにそれを思い出しただけなのだ。

ただ納得させるわけでもなく、空気に酔わせるだけでもなく、それぞれの問題を背負わせて帰らせる。すごいアートだと思う。アートにそこまででの力があるとはそれまで思わなかった。今思うとあそこまで心に迫ってきたのは寒い暗い恐いひもじいというある意味極限状態にあったからだったと思うのだが、本当に参った。ファンになりました。

行って良かったと思っているが、このままじゃ良くないだろと思う箇所は沢山ある。

まず寒い。… 昼間はいいがフェスが終わる頃には気温はすごく低くなっている。あとトンネルの中なので余計寒い。来年も根子フェスがあるとしたら服装についての注意をチラシに書いてほしい。

席によってかなり見えずらい。細い通路に大勢の人が並んで見るから最後尾は何が起きてるのかわからない。喋ってしまうのも仕方ないと思う。パフォーマーの後ろにスクリーンを置いて遠くの人も見えるようにするとか観客を通路の両端に並ばせてその間をパフォーマーが動くとかもっとあの場所の特徴を生かせなかったのかと色々考えてしまう。

説明があまりにも少ない。パンフレットが無い。聞こえてくる歌の題名が知りたくてもわからない。そもそもなんでこの場所のこのトンネル内でこんなことが起きているのかわからない(わからないことは考えることのきっかけになるけど…) 開催する側と参加する側の対話がもうちょっとでもあれば良かったのではないのかと思う。

「根子集落の人は無料で観られる」。これを聞いた時はひっくり返るかとおもった。トンネルの中にフェスとかに来なさそうな高齢のお婆さんがいたのはこうゆうわけだったのか!!これが良かったのかそうでなかったのかは判断しがたいけど現時点ではうーん….

トイレが大変。トンネルから少し遠い。トイレットペーパーが切れてないかこまめに見ててほしい。トイレ行ったとき二つある個室のうち片方のペーパーが切れててなんかすごいヒヤッとしたぞ。まあこうゆう旅ではペーパーは自分で持ち歩くべきなのかもね!学びました…。

他にもカメラの位置とか言いたいことは色々ありますが、東京などの都市部ではおそらく体験することのできないフェスだったとおもいます。来年もあれば是非また根子集落まで観に行きたいです。

 

(訂正と補足)

ライブに出てきた人たちのパフォーマンスは私は全て初見でした。

そして私は根子という場所に興味を持っていたため根子フェスのチケットを買いました。DOMMUNEが一体何なのかはほぼ知らない(そしてその自覚が無い)ままでの参加でした。ですから私が書いたレポはDOMMUNEを知らなかった側の意見として読んで頂ければ幸いです。

(でもあの中にDOMMUNEを知っている人は何名居たのだろうと思う。知っている人もちゃんといただろうが。ついでに写真はトンネルから出る直前に振り返って撮ったもの。私の少し後ろを地元の人らしきエプロンをしたお婆さんが歩いていた。ライブ中にこの人とは一度隣になった。最後の演目のノイズの最中、気になって隣を見るとその人はぎゅっと目を閉じて耳に手を当てていた。その場に居た地元の人たちには根子フェスはどう映ったのだろう。聞けなかったけど聞きたかった。)

 

 

 

この記事を書いたひと

西永レオナ

沖縄県出身。秋田市在住。学生。