この記事は大坂昌彦スペシャル・ユニット ”Knock Out Standards” Jazz CONCERTのレビューです。
例えば両手両足を駆使して四つの異なるリズムパターンを繰り出すと言われるエルビン・ジョーンズを持ち出すまでもなくジャズドラマーは昔も今もある意味で花形プレーヤーである。モダンに入ってからも、マックス・ローチ、アート・ブレーキー、フィリー・ジョー・ジョーンズ、トニー・ウイリアム等、綺羅星の如きスタープレイヤーを生み出してきた。本邦に於いても故富樫雅彦、森山威男を始めとして幾多の有能なドラマーを輩出してきたところである。
去る7月5日、横手市民会館大ホールに自己のカルテットを率いて登場した大坂昌彦もまた現在日本で五指に数えられるべきドラマーである。横手市出身ということで本県には馴染み深いはずであるが、意外にライブで接する機会は少なく、筆者は何年か前、秋田ゆかりのプレーヤーが一堂に会したコンサートで一度聴くことができただけで、ずっとCDによって聴いている状態であった。
この度のコンサートは国民文化祭関連ということか、演目はすべて馴染み深いスタンダードばかりで、あまりジャズに親しみのない市民にも楽しめるよう構成されていた。しかしながら、その演奏の内実たるや、大坂のドラミングは、ドラマーがリーダーであることを忘れさせるように控えめでありながら、カラフルで変化に富みよく歌い、一端ソロの場面になると格闘技系の本領を発揮して満場の聴衆を興奮の坩堝としてしまった。
大坂のMCによれば洗足大で師弟関係にあるという片倉真由子(P)の断片的なフレーズを速いパッセージでまとめ上げるインプロビゼイションは、クールでしかも熱っぽくカッコイイとしか言葉が出ない。
同じくMCで、その風貌が高見盛に似ていると紹介のあった川村竜(B )は実は風貌とは裏腹に堅実かつデリケートなバッキング振りであった。さすが由紀さおりのバックバンドで活躍しているというのも納得させられた。
さて、今回最も楽しみにいたのは川島哲郎(TS)である。筆者は何年か前、半径2メートル以内のジャズで知られた高田馬場のホットハウスでそのロリンズ張りの大きい音を聴いたことがあったがじっくり聴くのは今回が初めてで、最初のサマータイムから最後のモーメントノーテスまで完璧なまでの楽器のコントロール感と高音から低音まで縦横に駆使したイマジネイションに富むインプロビゼイションには言葉にならない感動があった。
満場のアンコールに応えて最後に演奏したテークジAトレインで川島は中にソーナイスを引用したアドリブで満場を沸かせ、片倉と川村がアンコールとは思えない気合いの入ったパフォーマンスを見せ、大坂昌彦がここぞとばかりの攻撃的なドラミングで締めくくった。最強のカルテットあった。
(使用画像は会場の前に広がる公園。)